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「さあ、そろそろ始めましょうか」
眼下に広がるコロッセウムを見下ろしながら、フードの女はそう呟いた。青黒い杖に腰を下ろしながら、空の上から生徒たちを見つめる。いや、ただ一人を見ていた。
見るもの全てを凍りつかせるような瞳は、ユラユラと揺れる。
掲げる右手が、獰猛で残酷な野獣たちが奏でるショーの幕開けだった。
「開幕よ」
乾いた音が響く、それは下界にいる従僕たちへのサイン。
二匹の影が、森を抜けコロッセウムへとその魔の手を掛ける。
「んー、どれにしようかなぁ」
「どれでも同じだって……さっさと選べよ」
練習武器を見つめながら、雅美は唸りながらくだらない事を考え込んでいる。そんな雅美を横目で見ながら、朱音は呆れ気味に呟く。
「だって、どーせ使うんならいいやつがいいじゃない。……それにしても、もうちょっと可愛いデザインのがいいなぁ」
武器で可愛いやつってんなんだよ、と心の中で突っ込みを入れながら、ゴチャゴチャと使い込まれた武器が入ってるかごの中へと手を伸ばす朱音。
その時、武器を手にした瞬間、大きく心臓が脈打つ。
ドックン!!!
(何だ?)
白兵戦術用の武器を持った朱音が感じた違和感。身体に電流が流れたように敏感な五感が捉えた、鋭くよどんだ空気と殺気。
朱音は、自分の手がジットリと汗をかいているのに気付く、いや、手だけではなく背中にも冷や汗が伝り、自分の鼓動がやけに大きく聞こえてくる。
(何?)
異変を感じたのは朱音だけではなかった、レイリスに武器を手渡していたリセリアも、張り詰めたような緊張感を感じる。
「リセリア?」
固まったまま動かないリセリアを心配し、レイリスはリセリアの顔を覗き込む。が、その瞬間、リセリアははっとした表情をしながら辺りを見渡した。
(……まさか!!)
一変した空気に若干の戸惑いを覚えたリセリアだったが、一気にそれは確信へと変わる。
「フォアル先生!!生徒を……!!!」
避難させてください、と言いかけた言葉は、突然の破壊音で掻き消される。砂埃と共にガラガラと何かが崩れ落ちる音がしたかと思うと、コロッセウムの壁の一部にポッカリと穴が開いている。並の攻性魔術や砲撃では打ち破られる事の無いよう造られた堅くぶ厚い壁が、用途を全く成さず崩れ落ちたのだった。そしてその先には、外の景色と共に壁を破壊したと考えられる異形の化け物が二匹、荒い呼吸をしながら佇んでいた。
(やはり!!)
チッと小さく舌打ちしながら、リセリアは毒づくが、今は考え込んでいる場合ではない。生徒達が残っている状態での戦闘という、最悪のシナリオが展開されてしまったのだから。
「!!」
「なっ何よ!?アレ!?」
(やっぱり、魔物が近くにいたんだ!! くそっ!!)
反応が遅れたことを悔やみながら、朱音は辺りを見渡す。
突然の状況に、生徒達の混乱は避けられない。我先にと逃げる生徒も居れば、その場でへたり込んでしまう者まで居る。しかし、それはもっとも最悪のパターンを作り出してしまう。よりにもよって、魔物達と最も近い生徒が、その場で動けなくなってしまったのだ。すかさず、教師であるフォアルが魔物達の気を惹くため愛用の剣を携え向かっていく姿が、朱音の目に映る。
「朱音さん、雅美さん!!」
生徒が混乱で逃げ出す中でも透き通るように耳に届く声と共に、振り返った朱音と雅美目には自分達のほうへと走ってくる三つの影があるのに気付く。金髪の巻き毛と、瑠璃色の髪を振り乱した友人。ロザリィ達だ。
「ここは危険です! 早くこちらへ!!」
「あの魔物はヤバイわ。 私たちが手におえるような相手じゃない!!」
慌てた様子で、朱音達の元まで辿り着いた三人。そして、休むまもなく微かに乱れた呼吸のまま、いつもでは考えられないほど声を荒げ言葉を発したロザリィ。しかし、今は状況が状況なので致し方ないだろう。アリアはいつもと変わらない口調だが、いつもとは違った真剣さのせいか言葉に重みというか、緊張感というのが感じられる。ミリアは、相変わらずオロオロとしていているが、気絶しないだけマシかもしれない。
「そう、それなら丁度いいわ。この子も一緒に連れて行って」
突然に降り注いだ言葉に皆、ハッとした表情で声のした方へと振り返る。五人無事で対面できたものの、予想もしない出来事に混乱を隠せない一同に、以外にもある人物が言葉を投げかけてきたのだ。朱音達の目の前には、最悪の状況下でも落ち着きの払った様子で相方を連れ立っている、白銀の魔術師がいた。先程の口調から感じ取れるに、こんな状況を冷静に受け止められるのは一人しか居ない。そこには、レイリスを無理やりにでも引っ張ってきたのか、彼女の手首をガッチリと掴んだリセリアの姿があった。
「貴方が残るのなら、私も残ります!!」
そんなリセリアの手を振り払おうとしながら、レイリスははっきりとした口調でこの場からの退去に拒絶を示す。ストレートの黒髪が動きにあわせて揺れ、色素が薄い銀髪のリセリアとは対照的な印象を受ける。
「……フォアル先生っ!!」
と、その時、魔物達の方から鈍い音が響いた。そして、俄然に飛び込んできたのは宙を舞うフォアル先生の身体。コロッセウムの白い壁に叩きつけられ、そのまま地面に倒れこんでしまった。魔物達の目の前には、逃げそこなった女生徒が一人、へたり込んでいる。どうやら、あの生徒を庇ったらしい。意識は無いが、微かに胸元が上下している事から、無事とは言いがたいが気絶しているだけのようだ。
「とにかく、彼女を無理やりでも構わないからここから連れ出して。お願いするわ」
「リセリア!!」
リセリアはそう言うと、掴んでいた手を離し、颯爽と魔物達のほうへと走っていく。レイリスの言葉も空しく、どうやら奴等と戦う気らしい。朱音達はと言うと呆然とその後姿を見送る事しかできなかった。
(まずは、彼女たちの安全を確保しなくては……)
冷静に状況を判断しながら、真っ直ぐと二人のところへと駆けつけようとしたリセリアだが、一匹の魔物はリセリアのほうへと向かってくる。人の形はしているが、所々腐食が進んでいて、肉が崩れ骨が見えてしまっている。金色の目玉は出目金のように外に浮き出ていて肌は褐色で鱗が生えていた。
その魔物の姿に、リセリアに疑問が過ぎる。この学院で唯一魔物が生息しているのは、サバイバルエリアしかない。とすれば、この魔物達はそこから脱走、あるいは故意的に連れ出されたことになる。いくらこの魔物たちが強力であったとしても、あの厳重に幾重にも構成された魔術障壁を破るのは至難の業、可能性はゼロに近い。とすれば、そのことから推測されるに、最も考えられるのは後者。それも、学院長直々にかけた魔術障壁を破るほどの力量を持った侵入者か、あるいは裏切り者がこの学院にまだ潜伏している可能性があるという事になる。
そうなると、不利な戦況は更に絶望的だ。今はまだ姿を見せていない強力な術者、それも一人とは限らない。
(まさか……奴らに嗅ぎ付けられた?いや、そんな筈はないわ。あの情報が外部に漏れているなんて……)
一瞬嫌な思考が頭を霞めるが、今は悩んでいる暇はない。拭いきれない不安を抱えたまま、今は目の前の敵を速やかに排除する事だけを考える。まだ居るかどうか確証は無いが、敵の術者と戦闘できるだけの魔力の温存はしておきたい。目先の敵に翻弄され、後の敵に殺されては何の意味もないのだ。それに、自分の背中には友人であり主君であるレイリスの命も掛かっている。時間が長引けば長引くほど、リセリア同様彼女も危険に晒されている事になるのだから。
「邪魔よ!!」
そう叫びながら、間近に迫る相手の頭上にシンボルを出現させ蒼雷を落とすリセリア。その間数秒とかかってはいないだろう。時間と労費を掛けずに、この場を乗り切るため、リセリアは足を緩めずもう一匹の魔物のほうへと足を伸ばす。全力では無いものの、必殺の威力を込められた攻撃に、視界を遮るような粉塵が舞っていた。
(このまま、一気に……!!)
だが次の瞬間、視界が悪くなった粉塵の中から太い腕が伸びる。踏み込んだ足に踏ん張りをきかせながら力を籠め、咄嗟に飛び退いた直後、先程までリセリアの居た場所を轟音と共に太い腕が抉っていた。一撃で仕留め切れなかった事実に驚いたのか、微かに眉を動かす。視界を遮っていた筈の砂埃は徐々に収まり、隠れていた魔物の身体が現れた。その身体には、至って致命傷といえるほどの傷は負っておらず、殆どダメージを与えられなかったらしい。予想だにしない出来事の連続に、珍しくリセリアは憎々しげにクッと喉を鳴らした。
「うふふ、そのこは失敗作だけど、結構硬いわよ……わざわざ私がここまで連れてきたんだから」
上空から見下ろす女はそう呟くと、眼下で戦う少女を楽しげに見つめた。
目的も不明なフードの魔術師の目論みどおり、惨劇は続いていく。
(まずいわね……)
チラリと、壁際で横たわっているフォアル先生と、いつの間にか気絶している女生徒に視線を送るリセリアだが、このままではあの二人がやられてしまうのは目に見えている。目の前に立つ魔物を倒さない限りは先へと進めないのだから。そして残る一匹の魔物は、乱入したリセリアのほうへと一瞬気を逸らしていたが、その目は再び倒れている彼女たちに向いてしまう。
最悪の現状。大抵の魔物であれば、リセリアの実力で一瞬にして終わらせる事ができていたのに、異常なまでの魔物の強さがそれらを全て塗り替えてしまった。怪訝そうに、一瞬顔を歪めるリセリアだが、また直にポーカフェイスに戻る。もしこの場で、フォアル先生が動けたならば、戦況を変えることも出来たかもしれない。打開策を考えながら、リセリアは再び攻撃を仕掛けた。
(どうすればいいんだ……!!)
鱗の魔物に落雷が落ちた瞬間を、遠巻きから見つめていた朱音。倒した、と誰もが思った時、砂埃の中で何かの影が残っていた。否、魔物はまだ生きている。そして、それを立証するが如く、一気に加速して彼女たちのほうへと向かうリセリアが飛び退いたのだ。砂埃の中から表れ始める魔物の身体、現れた時と然程変わらないという事は、リセリアの魔術が通用しなかったという事になる。目に見えて悪い戦況が朱音をその場へと駆り立てようとするが、今の自分にはあの戦いに参加できるほどの力量は無いといっていい、だがしかし……
「朱音さん、ここはリセリアさんに任せましょう。一刻も早くここから退避しないと」
「あっ君行こう。ここに居たらあっ君にも被害が及ぶかもしれないんだよ!! ホラ!!」
「あぁ……」
急かすロザリィと雅美の言葉に、朱音は煮え切らない返事をするものの、納得のいかない気持ちが身体を動かす事はない。
「あっ君!!」
グイっと朱音の腕を抱え込むように引っ張りながら、雅美は必死にその場から朱音を連れ出そうする。符術も無い状態での戦闘は、死にに行くようなものだ。それは朱音にも言えること、剣のない朱音は大げさに言えば武術を少しかじった程度の一般人と然程変わらないのだ。例え魔術が使えたとしても、誰よりも抜きん出ていたリセリアすら通用しないのだから、編入生である二人の魔術なんか付け焼刃にすらならないだろう。それは、この学院で長くから修練をしてきたロザリィたちにも言えることだった。
「まずいわよ……」
蒼白気味のアリアの呟きが、皆の視線を戦場へと向けた。その最悪の状況に、耐えられなくなったのかミリアは顔を手で覆い隠しながら目を背ける。動けない女生徒の方に、一匹の黒い獣の魔物の注意が戻ってしまったのだ。
頼みの綱のフォアル先生までもが倒れてしまい、魔物を二匹挟んだ所に居るリセリアが駆けつけることは出来そうもない。
「くそっ!!」
「ダメ!!」
悪態を付き、朱音は駆けつけようと走り出そうとした瞬間、それを遮るかのように雅美の力によって逆方向に引き寄せられる。
「雅美!!放せ!!」
「イヤッ!!絶対にダメ!!」
朱音の腕にしがみ付いて放さない雅美は、叫びにも似た声でそう言い、震える手に力をこめる。
「あんたが行ったところで、何にも出来ないのがわかんないの!?」
そんな雅美に続いて、アリアは朱音にズカズカと近づきながら乱暴に胸倉を掴む。その顔色からは怒りと焦りが滲み出ていた。
「馬鹿言ってないで、早く避難するのよ!!」
「人が目の前で殺されそうになってるのに、黙って逃げられるか!!!!」
アリアはそう言い募ると、朱音を引きずってでも連れていこうと強引に引っ張る。しかし、朱音は乱暴にその手を払いのけ、俄然にいるアリアに向かって力強く言い放った。その朱音の表情に、アリアは勿論の事周りに居たロザリィ達をも圧倒されたかのように目の前に立つ彼女を見つめていた。頑なに朱音の腕を放さなかった雅美も、彼女の剣幕に驚きその手を緩めてしまう。
「気に入らん……確かに私は弱い、だけどな!!! ここで逃げたら、本当に人として弱くなっちまう!!」
「あっ君!!」
「朱音さん!!」
「馬鹿ザル!!」
「あっ、朱音さん!」
力強い瞳には意志の強さが現れ、漆黒の髪を振り乱しながら、彼女は友人たちの元から戦場へと駆けていく。譲れないもの、彼女が幼い時に剣を教えてくれた曽祖父が、彼女に諭した心の強さ。その言葉を、その強さを忘れずに今まで生きてきた朱音にとっては、逃げる事など出来なかったのだろう。今はもうこの世にはいない、尊敬してやまない曽祖父の背中を、今もなお追い続けているのだから。
遠退いていく後姿に向かって口々に叫ぶものの、朱音が足を止める事はない。朱音を止めようと突き出したまま、宙に残され固まっている手を見ながら、一瞬呆然としていたが、力なくその場にへたり込む雅美。一時でも力を緩めてしまったことを後悔するも、全ては雅美が最も望まない展開に発展してしまったのだ。
そして、その朱音と魔物の姿は、もう一匹の魔物と対峙しているリセリアの目の端にも飛び込んで来た。戦闘に集中していたリセリアは、妙な予感を感じて、騒がしく叫ぶ彼女たちの方にチラリと視線を送ったのだ。気絶したフォアル先生と腰を抜かして動く事が出来ない生徒、そして今にもその二人に飛び掛らんとする魔物に向かって突撃していく、朱音の予想もしない無謀な行動に、大きく目を瞠るリセリアの口からは、考える暇も無く檄が飛んでいた。
「何をしているの!! 早く逃げなさい!!」
武器も無しに飛び込んでいって、トロルの二の舞だけでは済まされないかもしれない。運が悪ければ、いや、魔術も使えない彼女が餌食になる事は容易に想像がつく。そんな事は、当の本人ですら分かっているはずだった。それなのにどうして、彼女は危険をかえりみずああして助けに行くのだろうか。
しかし、そんなリセリアの言葉も空しく、もはや朱音には目の前の敵しか見えていないようだった。硬い地面を蹴りながら、数メートル先にいる漆黒の塊に狙いを定める朱音。リセリアには悪いが、ここで逃げるわけには行かない。幸い、魔物は目の前に倒れている二人に注意が逸れている。攻撃のタイミングは一瞬。そのチャンスを逃せるほどの余裕は、今の朱音には微塵もありはしないのだから。
(勝てない喧嘩をするほど馬鹿なことは無い……だけど……ここでビビッて尻尾を撒いて逃げるくらいなら、いっその事当たって砕けてやろうじゃねーか!!)
「ウラァ!!」
ズガ!!!
「グルァァ!!」
スピードを落とさず、黒い獣に向かって距離を縮めた朱音は、硬い地面から足を離し、助走を殺さぬまま、漆黒の魔物に向かってドロップキックを食らわす。狙いは勿論、人体の急所でもある頭。大したダメージは与えられなかったものの、小さな呻きと鈍い音と共に少なからず怯んだように体勢が崩れその場に倒れる魔物。この時、朱音は無意識下で攻撃の瞬間に少量の魔力を足に集中させていたのだ。そして、ご馳走を目の前にし、危機感と探知能力が散漫としていたのか、気付いたのが一歩遅く魔物側もその攻撃を避け切れずにまともに食らってしまったのだった。
「よしっ!!」
「じゃないわよ!!!!!」
魔物の傍らで着地を果たした朱音は、まずは初撃に成功したことを確認し、朱音が声を上げガッツポーズをとろうとした瞬間、怒りに満ちた言葉が朱音を襲う。
突然の突っ込みと思しき言葉が響き、声のした方を見れば、怒りを露にしたリセリアが激しく自分を睨んでいるではないか。
「何を考えているの!! 無謀な事をするのはよしなさい!!!」
「ッ!! おい!! 後ろ!!」
際限なく溢れる怒りを吐き出すリセリアの後ろに現れる魔物。リセリアがこちらに気を取られている隙を付いて来たらしい。正面を向いているリセリアの背後に近づく危険を知らせようと、朱音は叫ぶ。しかし、背に近づく魔物の脅威より、銀髪の少女の方が全てを凌駕していた。
「人が話している最中に、邪魔をするな!!!!!」
彼女がそう叫んだ瞬間、先程の魔方陣よりも数倍の大きさと魔力を誇るシンボルが、敵単体の頭上に現れ、最初に食らわした程度の比ではない落雷の魔術が褐色の魔物に落とされた。その威力の凄まじさに、風圧と言うか暴風並みの風が辺りに吹き荒れる。
(こえ~!!! 魔物よりこえ~!!!)
般若のような顔つきでこちらを見続けるリセリアに、恐怖を感じづにはいられない朱音。リセリアのバックに悶々と立ち込める砂埃が、更にリセリアの威圧を深める。
「命が惜しければ、逃げなさいといっているのが分からないの……」
「……
ダチを置いて逃げられるか!!」
何時にも増して凄みのある口調と雰囲気に、一瞬気圧されたように朱音は黙ってしまうものの、リセリアの怒号を物ともせず、いや、半ばやけくその様にそう叫んだ。多分彼女の思考は、一時的にどこかへ飛んでしまったのだろう。
「は……」
朱音のその言葉に、理解できないといった感じに顔を顰めるが、一時の沈黙のあとその言葉の意味を理解したリセリアは声にならない何が喉につかえるような感覚に襲われる。カァ、と柄にも無く顔が火照る。何故ああも恥ずかしい台詞をポンポン吐けるのだろうか、聞いているこっちが恥ずかしくなると。
「なっ……あ、クッ……、私と貴様がいつ友人関係になった!!」
「んな事知るか!!」
「何だそれは!! 大体、貴様は何故そのような事を平気で言える!! 恥ずかしくないのか!!」
「あぁ!?恥ずかしいに決まってるだろうが!!」
動揺を隠し切れないように怒鳴るリセリアだが、更にその上を行くように、完全に答えにならない返答を叫けび返す朱音。
「何あれ?」
遠巻きにハラハラと静観していた雅美達は、二人の掛け合いに状況を忘れ呆気に取られていた。自然と口からそう言った言葉が零れてしまう程に。
そんな中、レイリスだけは皆とは違う驚きを目の当たりにしていた。
(リセリアがあのような反応を示すなんて……まるで、昔からの友人のように)
その光景は、どこか冷たさを感じるリセリアの仮面という表情を、ポロポロと剥がされていくようにレイリスには感じられた。
「リセリア……」
複雑な面持ちでその光景を見つめるレイリスは、従者でもあり友人でもある彼女の名前を呟いた。