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「ロザリィ?本当にあんな奴を、生徒会に引き入れるつもりなの?」
ロザリィの隣を歩いていたアリアは、不満げにそう言いながら顔を顰めた。今日は半日で学校が終わったこともあり、廊下に居る生徒たちはいつもよりずっと少ない。もう少し時間が経てば、校内には生徒会役員しか残らないだろう。
「勿論よ。実力も無いわけではなさそうですし。人手不足の生徒会には丁度いい人材じゃないかしら。それに……」
ロザリィは不意に足を止め、廊下の壁にも凭れ掛かる人物に気づき言葉を噤んだ。
「それに……、何かしら?続きがあるならば、是非とも聞きたいわね」
落ち着いた口調、しかし何もかも見透かしたようなその言葉を発した者は、やり手で有名なロザリィをも認める人物だった。銀髪の腰まである髪、深緑の瞳は誰もが見入ってしまうような力強さがある。彼女がいるだけで、その場に流れる雰囲気変わってしまうほどの存在感を漂わせているのが、小柄な体格からは想像もつかない。
「あら、リセリアさん。ご機嫌よう……私に何か御用ですか?」
そんな彼女を静かに見つめながら、至って冷静にそう答えるロザリィもまた、それなりの資質を持っていると言える。
「いえ、大した事ではないのですが……皆が敬愛する生徒会長様が、一編入生である彼女にやたらとかまう理由、に興味が湧いたので……」
「この学園に来て、右も左も分からない編入生を心配するのは、クラスメート……生徒会長として当然の事ですけれど……。それより、私にはリセリアさんの方が、よっぽど彼女のことを気にかけているように見えますわ……」
この時、聞こえるはずも無いゴングの音が響いた気がしたのは、アリアの気のせいだろうか。
涼しげに笑いそう言うリセリアの顔を見ながら、ロザリィとアリアは苦虫を潰したような気持ちになる。しかし、ここでやり手であるロザリィはそ知らぬ風に、極上の笑みを零しながら答える。反撃も含めて、だが。
アリアはと言うと、そんな心情が顔に出ているのはいうまでも無く、ここはロザリィに任せて、押し黙っている事の方が得策だと判断しているようだった。
ドロドロとした心理戦を繰り広げている二人の間には、ビリビリと音を立てる電流が走っている。その光景を作画するならば、竜と虎が対峙している絵がピッタリだろう。そんな二人を見ていたアリアは、根本的にこの二人は似ているのかもしれないと感じていた。
緊迫した雰囲気の中、顔を引き攣らせた二人から発せられる高笑いが響く。決して居心地が好い空間ではない。
アリアは思う。もし許されるのならば、この場から一分一秒でも早く逃げ出しているのに、と……。
そんな時、廊下から発せられる異様なこの雰囲気を察知したのか、それとも偶然か。二人の後方にある、実験準備室のドアが静かに開いた。
「リセリア、ごめんなさい。先生に色々と質問していたら遅くなってしまって」
部屋から出てきたのは、濃い紫色の制服を着た黒髪の少女。美しいその髪は腰より更に長く、艶があり、ふんわりとした笑顔が印象的な彼女は、リセリアが唯一交友関係を結んでいるレイリスだった。
落ち着いた丁寧なその口調は、彼女の性格に影響されてか、何となくその場を和ませる力を持っていた。予想だにしない彼女の登場に、二人の間に立ち込めていた雰囲気が、一瞬のうちに消えてしまう。レイリスはと言うと、廊下にリセリア以外にも人がいることに驚いたのか、一瞬キョトンとした表情をするが、またいつもの様に笑って「ご機嫌よう、ロザリィ様、アリア様」と挨拶をする。
そんなレイリスの目の前で、先程のような口論を再開する訳にもいかず、取り繕うようにロザリィとリセリアは毒気の抜けた声で慌てて返答を返す。
「ごっ、ご機嫌よう。レイリスさん」
「もっ、もう終わったの?意外に早かったわね」
そんな二人の姿がまた、アリアには重なって見えてしまい、再度またこの二人は似ているのだという確信に一歩近づいたような気持ちになった。根本的にこの二人は似ている上に、苦手なタイプも同じなのだ。その苦手な相手と言うのは、勿論目の前にいるレイリスなわけで……
「リセリアさん、このお話はまた後日ということで……」
「えぇ」
ロザリィは聞こえる程度に小さくそう呟くと、リセリアもアッサリそれを了承する。二人の意思が一致した所で、ロザリィは笑顔を作りレイリスのほうに視線を移した。
「では、生徒会の集まりがあるので、失礼しますわ。レイリスさん、リセリアさん、ご機嫌よう」
落ち着いた声色でそう言うと、リセリアとレイリスの横を颯爽と横切り、優雅な足取りで生徒会室へと向かう。そんなロザリィの後を、アリアも急いでついていく。彼女達の脇を通り、レイリスにしか聞こえない程度の声で、「助かったわ」と告げながら。
そのアリアの言葉に、レイリスがまたいつもの様に眉を八の字にしていたのは、言うまでも無かった。
第五章 《After School》へ