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「あぁっ!! いったい何なんだよ!!」

 自室のベットに飛び込みながら、朱音は今日一日溜まりに溜まったストレスを吐き出していた。その声は反響することも無く、ただただ壁に吸い込まれていく。誰からの返答も無い。
朱音しかいないのだから、答えが返ってくる筈も無いのは百も承知なのだが、その静寂が余計に神経を逆撫でする。

「い゛~」

 終には、意味も無い唸り声を上げさせてしまうほどに。しかし、これをするだけでも気持ちが幾らか軽くなった。溜め込んでおくよりは、それがどんな方法であろうと発散するほうが、精神的にも身体的にも良いには変わりはないのだから。

 ピンクの布団の上に仰向けになりながら、朱音は黙々と天井を見つめる。編入初日にトロルに追いかけられ、三角定規を振り下ろされ、自分の勘違いもあったが、あって数分も経ってない女生徒には顔面パンチ。つくづく運が悪い。

「疲れた……」

 今の自分における全ての状態を言い表すならば、この言葉しか当てはまらない。ポツリと口から零れたその呟きは、やはり誰に聞かれることは無く、先程の言葉同様壁に吸い込まれていった。

 剣の修行でも、これ程までに疲れたことはあっただろうか。肉体的負担より、精神的負担が多い今日の出来事。こう言った疲れからは、全くと言っていい程眠気が訪れない。

「暇だ……」

 疲れてはいるが、眠気が訪れないせいで暇を持て余している朱音にとって、何もしないという行為は更に疲れを溜めるらしい。一言で言えば、落ち着きが足りないだけなのだが。
 ベットの近くに置いてある時計に目を通すが、夕飯まではまだ大分時間があるし、部屋には暇を潰せるものもない。こんな事なら、内緒でゲーム機でも持って来ればよかったと、少し後悔する朱音であった。

 するとその時、ノックの音が部屋に響き、了承していないのにも関わらずズカズカと部屋に入ってくる小娘が一人。

「勝手に入ってくんなよな」

 朱音は布団に寝転んだまま、視線だけその人物に向けながらそう言った。

「そういう事は、姿勢くらい正してから言ってよね」

 ベットの前に腕組をしながら立つ雅美は、朱音のことを冷たく見下ろしながら返答を返す。

「やだ、めんどくさい」
「んもぅ、初日からそんなんじゃこれから先どうすんのよ」

 だらしなくベットに寝そべっている朱音に対して、呆れ気味にそう呟くものの、その声色はいつもよりずっと穏やかだ。朱音に対しての気遣いが感じ取れるその口調がそうさせるのだろう。

「ほら、元気だして。あっ君らしくないぞ」

 優しく朱音に語りかけながら、雅美は朱音のベットに腰掛ける。

「あぁ、帰りたい。家が恋しいよー」

 ホームシックになった子供のような声を上げるフリをする朱音を見ながら、雅美は苦笑する。どうやら、先程よりかは元気を取り戻したらしい。

「今日はちょっと大変なことばっかりだったけど、明日からはきっと楽しいわよ。もし楽しくなくても、楽しくすればいいじゃない。ね?」

 そう言った雅美の顔は、何処と無くだが子供をあやす母親に似ていた。相手は随分と態度も図体もでかい子供だが。

「んーあー……、そうだな……」

 ベットのに寝そべったままの曖昧な答えだが、朱音の顔色からは暗い影がすっかりと消えていた。明日が待ち遠しいというところまではいかないが、明日を迎え入れるという気持ちの踏ん切りはついたらしい。
 
「よかった~。……ところで、ミリアちゃんとはどこで会ったの?」

 

 

 

「リセリア。先ほどのアリア様のお言葉は何だったのでしょう?」

 グリーン茶を啜りながら、本日三度目の質問をしてくるレイリスに、リセリアは溜め息しか出てこない。先ほどの廊下でのアリアの言葉が、まだ頭から離れないらしいく、リセリアが部屋に招き入れてからずっとこの調子だ。
 質素だが、どこか上品さが漂うリセリアの部屋は、彼女の性格をそのまま現しているかのようだ。古い柱時計や、あまり派手さの無いオルゴールのアンティーク物が置いてあるその部屋の空間は、他と違ってゆっくりと時間流れているように錯覚してしまう。いや、正確に言えば、目の前にいる彼女の雰囲気がそうさせている部分も大きい。

「さっきから言ってるじゃない。そんな事、私が知るわけないでしょう。それより、私の部屋にいつまで居るつもりなのよ……」

 ぶっきら棒にそう答えながら、リセリアは紅茶が入っているコップに口をつける。テーブルを跨いだ先にいる人物は、リセリアの発した言葉も気にも留めずに、のほほんとまたグリーン茶を啜った。

「リセリアもどうですか?和みますよ」
「私の言葉を無視するなんて良い度胸じゃない……」
「はい?」
「……いえ、何でもないわ」

 ニッコリと微笑みを返すレイリスを見ながら、これ以上言っても無駄だと解釈したのか、リセリアは口を噤む。彼女のペースを崩せる人間は、果たしてこの世に居るのだろうか、もし居たのならば是非とも会ってみたいと思うリセリアであった。

「あぁ、そう言えば……。リセリアに相談があるのでした」

 のんびりとした口調でそう言うレイリスに、リセリアは不安が込み上げる。また何か面倒ごとを押し付けられるかと思うと目眩がしてくる。リセリアの心理状況なんて露知らず、レイリスは変わらない口調で言葉を続ける。

「購買部の方々に、購買の方を手伝って欲しいといわれたのですが、どうすればいいでしょうか?」

 購買部の手伝い?何だそんな事かと胸を撫で下ろすリセリア。てっきり、もっとはた迷惑な無理難題を押し付けられるかと思っていたのだから。

「そんなの断りなさい。貴方にはああいった仕事は向いてないし、やりたくないんでしょう?」
「えぇ、私も本音を言いますと、購買部の方々には申し訳ないと思いますが、忙しいのは好きではありません。しかし……」
「しかし何よ」
「購買部の方々がどうしてもと仰るのです」

 困ったような顔をしてそう言うレイリスの顔を見ながら、リセリアは購買部の意図を察していた。レイリスはおっとりとしているが、こう見えて学内でのファンが多い。そのレイリスを引き込もうという購買部の魂胆を、レイリスは見抜けないでいるようだ。これじゃあ、勘が鋭いのか鈍いのかよく分からない。

「ですから、リセリア。よろしくお願いしますね」

 ニッコリと笑顔でそう言い放つレイリス。その瞬間、ブッと紅茶を噴出すリセリア。今この子は何と言った?よろしくお願いしますね、ですって。冗談じゃない、アスガルドの購買部と言ったら、フリルの付いたピンク色のウエイトレス姿で有名な部ではないか。何が悲しくて、あんな姿にならなければならない。 

「冗談じゃないわ! 購買部なんて、あんな人に媚びるための無様な服装に身を包んで、無駄な笑顔を振りまいて『いらっしゃいませぇ、ご注文はどうなさいますか♪』とか愛想振りまくんでしょう? そんな屈辱的な真似死んでも御免よ!」

 物凄い勢いでまくし立てるリセリア。だが、何故か愛想を振りまく演技が上手いのは気のせいか。

「でも、制服貰ってきちゃったんです。Sサイズ」

 レイリスの服のサイズはMサイズ、リセリアのサイズはSサイズ。これは虐めと呼ぶに相応しい行為なのだが、レイリスに作意はない。レイリスのこの言葉に、リセリアが絶句したのは言うまでも無かった。


後編へ


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