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 リセリアが部屋で硬直している頃、所変わって生徒会室でも何やら揉め事があったようだ。普段は決してあるはずの無い、廊下まで聞こえるほどの怒声がその生徒会室から響いていた。

「私は反対です!! 何故あのような輩を、この学院の筆頭である生徒会に加えなければならないのですか!! それに彼女は、この学院自体に相応しくありません!!」

 ズレ掛かった眼鏡を手で直しながら、しっかりと切りそろえられた前髪からは、怒りの篭った瞳が垣間見られる。アップで纏められた髪型からは、派手な印象よりも、生真面目な雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。その少女は肩を震わせ、生徒会の面々が静かに席に座る中、仁王立ちをしながらこの場にいる彼女たちに訴えかける。

「今日のトロルの一件でもそうです!! 確かに怪我人は出ませんでした、しかし!! 一歩間違えればどうなっていたか……!! それもこれも、全てはあの、編入生鬼宮朱音の責任です!!」

 ダン!!と机を叩き力説する彼女に対して、役員たちの顔色は更に緊張の色に染められていく。彼女はこの場にいる全員の顔を眺め回しながら言い放った。

「琴美さん、それは違うわ。彼女は一番の被害者よ。それに彼女は被害が出ないように、生徒たちと一定の距離をとっていたわ。その場にいた私が言うのだから、間違いはありません」

 憤慨しながらそうまくし立てる彼女を言葉で制したのは、今まで沈黙を貫き通していた、金髪の巻き毛が美しい生徒会のトップであるロザリィだった。すると、ロザリィのその言葉で、さっきまでの勢いが身を潜めてしまったように彼女は大人しくなる。

「相変わらず、ロザリィには弱いわね~。琴ちゃん」

 そんな彼女の事を、苦笑しながら見守っていた人物。ロザリィの隣に座っていた、生徒会副会長であるアリアは意地悪そうにそう言った。彼女、生徒会書記である有沢琴美は、数多くいるロザリィファンの中でもトップクラスの、ロザリィ崇拝者である。ロザリィに憧れてこの生徒会に入り、仕事をそつ無くこなす生徒会の優秀な人材の一人だ。真面目過ぎるのが玉に瑕で、この生徒会にもかなりの誇りをもっている。だからこそ、編入生である鬼宮朱音を入れると言う事について、彼女は猛反対しているわけである。

「そっ、そんな事は……!!」
「あるわよね~。まぁ確かに、琴ちゃんの意見に賛成するところもあるわ。私の心情的に言えばだけど……」
「アリア」

 話が纏まりそうになった所で、余計なことを言うアリアを軽く睨むロザリィ。しかし、アリアはこれといって気にすることも無く、言葉を続けた。

「だって、あいつムカツクし、何でもかんでも人のせいにするしー」

 今日の事は、完璧に貴方が悪いでしょうに、と思うロザリィだったが、ここはあえて黙っておくことにする。下手に口論になるよりは、落ち着いた話し合いの場の確保が最優先だ。

「そうですよ!! 今日だって、授業の大半を居眠りしていたそうじゃないですか!! とにかく、この生徒会に入る資格は、彼女にはありません!!」
「んー、やっぱり琴ちゃんとは気が合うわねー。……でも、確かに快くは思っていないけど、あいつには生徒会に入ってもらわなきゃ困るのよね」
「えっ!! 何ですか急に!?」

 散々自分の意見を肯定しておいて、このタイミングでそれは無いだろうと思う琴美。しかし、アリアにも譲れない訳がある。それは……

「だって、生徒会にあいつが入れば、その分あいつを見張ることが出来るわ。ミリアに変な虫が付いたら堪んないもの」

 やはり、ミリアの事と関係していたらしい。

「妹さんの事と生徒会は関係ないじゃないですか!!」

 そんな事を真顔で言うアリアに対して、呆れ半分怒り半分といった感じに叫ぶ琴美。

「大有りよ!! 私にとっては、一にミリアに二にミリア、三にミリアに四にミリアなのよ!!」
「ベストスリーにも生徒会入ってないじゃないですかぁ!!」

 アリアにとっては、最低でもランクフォーまでは全てミリアが占めているらしい。そんな二人の姿を、生徒会役員一同は苦笑交じりに見守っている。

「ふん、この世にミリアに勝るものなんてないわ」
「変なところで勝ち誇った顔しないでください!!」

「ちょっといい?」

 二人の言い争いとも呼べない言い争いが激化する直前、アリアでも琴美でも、ロザリィでも無い声が生徒会室の空間を支配した。甘い絡みつくようなこの声は、殆どこの生徒会に顔を見せないことで有名な幽霊役員で、ウェアワイルドと言う獣の血を引き継ぐ一族であるクロエだった。

「貴方が意見を出すなんて、珍しいですね」

 ロザリィは驚きと感心が混じったような声色でそう言った。幽霊役員で殆ど姿すら見せないし、見せたとしても意見を言うこと何て今まであっただろうか。彼女は生徒会役員だが特殊な役割についていて、執務や行事等での活動はあまりしない。

「ロザリィ~、それは酷いわよ。あたしだって、意見くらい言うよ。それに、今日は生徒会に出るつもりなんて無かったのに、琴美に見つかったせいでこうして無理にでも連れてこられたわけだし、言うこと言っとかないと損じゃない」

 不貞腐れたようにそう言う彼女は、琴美に連れてこられたことを多少なりとも根に持っているようだった。アスガルド女学院では珍しいボブショートの黒髪から生える印象的な猫ミミがピクピクと動く。

「貴方は生徒会に出席し無すぎるのよ!!」

 間髪入れずにツッコミを入れる琴美。その姿を見るたびロザリィは、生徒会の集まりがある度に彼女の気苦労が絶えないのだろうと思う。

「いいじゃない、仕事はしっかりしてるんだから」
「よくなーい!!」
「ほらほら琴ちゃん。そろそろクロエの意見を聞こうじゃないの」

 そういう二人を止め、先へと促すアリア。そう言われては、口を噤むしかない琴美は、まだ言い足りない言葉をグッと堪えて、クロエの言葉を待つしかなかった。ロザリィもまた、静かにその言葉を待つものの、普段意見を言わない彼女の意見とやらに興味は高まる一方だった。生徒会室が静寂に包まれたことを確認してか、クロエはどこか楽しそうに口を開く。

「さっき、琴美は彼女には生徒会に入る資格はないって、言ったわよね。私の判断はむしろ逆かな。倒したとは言えないけど、あのトロルの棍棒を壊すことの出来る生徒はそうはいないんじゃないかな。まぁ、その後へばっちゃったら意味無いけど、そこらへんの改善はいくらでも出来るし。私は賛成に一票かな」

 そういい終わると、クロエはニッコリと笑いながら、「人手が足りないんだから、選り好みしてる暇はないでしょ」と付け加えた。それを聞いていた琴美は、反論の言葉を考えていたものの、クロエがそういい終わると同時に、タイムリミットを知らせる最終の下校通知のチャイムがなってしまい、話し合いは一旦終えることとなってしまった。

 いそいそと生徒会室から出て行く生徒たちを見ながら、ロザリィは小さく溜息を吐き。積み重なる問題に懊悩するものの、自身の机に散らかった書類を整理する。
癖の強い生徒会役員たちを纏めるのは、やはり容易ではないと言う事をこの会議を通して更に痛感したロザリィであった。

 

 


二人でベットに腰掛けながら、朱音と雅美は今日一日の出来事について語り合っていた。正確に言えば、雅美の質問責めに合っていた、と言った方がいいかもしれない。

「ふーん。じゃぁ、あっ君はミリアちゃんの歌に誘われて、変態みたいに付いていったんだ。セイレーンの魔性の力、侮りがたしね」

 ごく普通に人を変態呼ばわりしながら、雅美は感心したようにそう呟いた。

「変態みたいって言うな」

 朱音は聞き捨てなら無いといった感じにそう反論するものの、今朝のことを思い出してみると、あまり強くは否定できない気もしてくる。しかし、ここでそれを認めてしまっては、一生雅美に変態と罵られて生きていかなくてはならない、それだけは何としても阻止しなくてはならなかった。

「それにしても、あっ君アリアちゃんともう少し仲良く出来ないの?」
「仲良くも何も、あいつが私を嫌ってるんだからしょうがないだろーが」

 不機嫌そうに呟く朱音の顔を見ながら、雅美は何かを考え込むように少し黙ってしまったが直に口を開く。

「そぉ? 私は二人とも仲良くできると思うけどな……。なんか二人とも微妙に似てるし」
「はぁ!? 私は初対面の人間を殴りつけるようなことはしないぞ!!」

 雅美のその言葉に、朱音はおもいっきり顔を顰めながら叫ぶ。

「アリアちゃんってさー、活発そうだし気兼ねなく話せるタイプだと思わない?自分がこう思ったらどこまでも突き進んでいくタイプだと思うし……。ほら、あっ君もそんな感じだし。それにあっ君さー、ここに来て私以外に言葉がくだけたのってアリアちゃんだけじゃない。それって、少なからずは気を許してるってことになると思うけどなー」

 雅美の言っていることは何となく分かるものの、やはり認めたくないという気持ちが強いせいか、朱音は顔を顰めたまま黙り込む。

「ほらほら、そんな難しい顔しないの」

 苦笑交じりにそう言いながら、雅美は朱音の顔を覗き込みニッコリと笑い、そのまま勢いよく立ち上がる。

「はい、今日のお話はこれでおしまい。気持ちを切り替えて、夕食でも食べに行きましょ」

 雅美は明るくそう言って、ベットに腰掛けたままの朱音の腕を引っ張る。雅美に言われて気がついたが、話し始めて随分と時間が経っていることに気付く。昼は烏龍茶だけしか飲んでいなかった朱音は、今頃になって急激な空腹を感じた。

「う~ん。そう言えば、腹が減ったな」

 朱音はヨタヨタと立ち上がりながら、腹を抑える。そんな朱音の姿を見て、雅美は「だから、カツサンド食べるって聞いたのに」と笑いながらそう言うと、朱音の腕を再度引っ張り、カフェに向かう。
 そうして、雅美に引率されながら、朱音の今日の一日は幕を閉じたのであった


第六章へ


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