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「ふぅ……」

 数学で使う教材を手に持ちながら、ミリアは軽く溜息を吐く。廊下では、いつもの事なのだが、自分の事を見ながらヒソヒソと囁く声が聞こえていた。軽蔑や疎んじるその視線に、ミリアはいつもと同じように、肩を縮こませながら廊下を歩く。一メートルはある教師用の三角定規を教室まで運びながら、ミリアは悩む。

「まさか、同じクラスになるなんて……」

 ポツリとそんな言葉が口から漏れた。

(レイチェル先生も人が悪い。編入生が来ることは言ってたけど、それが自分のクラスなんて一言も言わなかったのに……)

 大人なのだが、妙に子供っぽいところがある担任教師の顔が浮かぶ。確かに、知っていても、どうにもならなかったとは思うが、心の在り方は違うと思う。俯き加減で廊下を歩くミリアから、自然とまた溜息がでる。

 決して嫌じゃない、同じクラスになれたと知った時、私は嬉しさを押さえきれなったのだから。今日会ったばかりの人なのに、自然と打ち解けられた。不思議なくらい自然に話が出来た。もしかしたら、今まで生きてきた中でこんな事初めてかもしれない。
 でもやっぱり、嬉しさと一緒に不安も大きい。幻滅されるのが怖い。

 何回か話しかけてみようかとは思った。でも、いざ話しかけようとすると、その場で足が固まってしまったように動かなくなり、タイミングを逃してしまう。
 それに何だか、とても疲れているようだったし、寝ている相手を起こす事までするのは何となく気が引けてしまう。

「どうしよう……」

 自分でも何がしたいのかも分からないのだが、今はそんな言葉しか出てこない。

「……?」

憂鬱な気持ちを抱えたまま歩き続けていたせいか、いつの間にか目的地に着いてしまったのだが、いつもより教室が騒がしい。廊下にまで届く音は、反響して更に音量が増す。気のせいか叫び声まで聞こえるのは、幻聴だと信じたい。

 スライド式のドアノブに手を掛けるものの、中々教室に入る一歩が踏み出せない。しかし、入らなければ自分が困ってしまう。教材をずっと自分が持っているわけにもいかないし、ここに居ても何にもならない。
 頭では分かっているのに、伸ばした手はドアノブに摑まったままになっている。
 すると、教室で一際大きな、ドッタンバッタンなどの荒々しい音が聞こえたかと思うと、バタバタとドアに向かってくる誰かの足音が聞こえた。反射的にドアから退こうとした時、目の前のドアはものすごい勢いで開け放たれていた。
 ドアが壊れるかもしれないくらいと思わせる程の勢いだったため、ミリアは驚きでその場に硬直する。
 すると、そこにいたのは……

「たっ、助けてく゛れ゛~」

 頭から流血し、青タンだらけのゾンビめいた輩が居るではないか。
ミリアは、驚きのあまり息をするのすら忘れる。顔色は見る見るうちに悪くなり、瞳には涙が浮かぶ。
 そして次の瞬間、悲劇は起きた。

「いっ、いや~~~~~~~~~~~~」

                ゴシャァ!!

 ミリアの叫び声と共にあがる不快音。頑なに目を瞑っていたミリアは、恐る恐る目を開く。と、目の前のゾンビの頭に、教員用の三角定規が刺さっている。そしてその三角定規は、ミリアの手にしっかりと握られていた。どうやら、ミリアは反射的に三角定規をゾンビに向かって振り下ろしたらしい。
 そして、そのままゾンビは音もなくその場に崩れ落ちた。

 

 

「……」

 朱音は不機嫌な顔つきをし、カフェのテーブルに座りながら紙コップに入った烏龍茶をストローで啜っていた。包帯が巻かれた手や頭、シップが貼られた顔が痛々しい。

「あっ、あっ君。これ食べる?美味しいよ?」

隣に座っている雅美は、精一杯の笑顔を見せながら自分が注文したカツサンドを勧める。雅美自身、先程の出来事で朱音の事を助けなかったことに対して、少しばかりバツが悪いようだ。それに、朱音が珍しく拗ねているので、何となくだが困ってしまう。

「……」

 朱音は、そんな雅美の方を見ようともせず、烏龍茶を飲み続ける。

あの後、保健室に担ぎ込まれた朱音は、保健医のシェリスに手当てを受けたものの、途中参加した授業も身に入らず、今に至る。授業に来たときから、不貞腐れた子供のような態度は変わらないため、一緒に食事をしている雅美とミリア、それにロザリィとアリアは困り果てていた。と言うか、どちらかと言うと殆どの原因である当事者のアリアは、さも自分は関係ありませんといった様子で踏ん反り返っている。

そんなアリアに向かって、ロザリィは小声で呟く。

「アリア、ちゃんと謝りなさい。今回は、貴方の早とちりが原因なのですから……」

 諭すようにそう言うロザリィの言葉に対して、不満気な顔するアリア。

「私は悪くないもん」
「お前がいきなり殴ってきたんだろうがー!!」

 はっきりとした口調でそう言うアリアの言葉に対して、両手で掴んだ烏龍茶の紙コップを、ブルブルと震える手で握り締め、朱音は目尻に涙を溜めて叫ぶ。その姿は、怒りよりも恐怖のほうが明らかに強いように見える。

 そんな朱音の顔から、アリアはフンと鼻を鳴らしながらプイっと顔を背けた。
朱音は、そんなアリアの姿を目尻に涙を溜めたまま唸り声を上げて睨み続ける。

「ごっごめんなさい!! 私が悪いんです!! 全部私が悪いんです~!!」

 そんな二人の姿を見ながら、今度はミリアが泣き出してしまう始末。

「ミリア!! ミリアが悪いんじゃないわ!! こいつの自己責任よ!!」
「お前のせいだろうがー!!」

 そう言いながら、朱音の鼻先にビシっと指をさすアリアに、間髪入れずにツッコム朱音。
そんな二人の姿を見ながら、苦笑交じりに溜め息をつくロザリィと雅美。

(そろそろ、潮時かしら……。今日はこの辺で、アリアをつれて帰ったほうがよさそうですし。明日お声を掛けたほうが無難ね)

 ロザリィは、努めて冷静にそう考え。この場を、アリアを連れて一時退散することにした。アリアの事では、また手を出さないとは言い切れない。

「あら、もうこんな時間ですね。そろそろ、会議の時間ですし、もう行かなければ……」

 自然に、時計に目を向けるロザリィは、今まで気付きませんでしたという様子でそう言う、もちろん芝居であるが。しかし、その姿がとても自然だったため、誰もその真意には気づかなかったようだ。
正確に言えば、雅美を除いてだが。

「会議?」
 
 ロザリィのその言葉に、朱音は不思議そうにそう呟いた。

「えぇ、私は高等学部の生徒会長を務めさせてもらっているものですから、生徒会の集まりがあるのです」

 ロザリィはサラリと爆弾発言をする。生徒会長という立場を鼻にかけない彼女の姿は、人当たりもよく確かに人望も厚そうだと朱音は思った。

「もうそんな時間なわけ?って、まだ十五分もあるじゃないの」
「生徒会長と副会長が先に居ないのは、他の役員に示しがつかないでしょ。それに、早めに行って、議題の事を有る程度纏めておくのもいいでしょうし。その方が、早めに会議を終わらせられるわ。それに、今日は授業が半日までなのだから、貴方だって早めに帰りたいのではないの?」

 朱音は、そのロザリィの言葉に対して、新たな疑問が浮かぶ。ロザリィのその言葉は、この場に副会長がいるような言い回しなのだ。そしてその人物は、今ロザリィがその言葉を投げかけた人物ということになる。朱音は、その人物を横目で見る。

「まぁ、確かにそれはあるわね」

ロザリィの言葉に対してアリアは、納得したようにそう呟いた。そして、顔を顰めて自分のことを見ている朱音に気づく。

「何よ?」

 朱音の事を睨みつけながら、思いっきり機嫌が悪そうにそう問いただすアリア。

「副会長?お前が?」
「そうよ、何か文句あるわけ?」

 更に朱音は顔を顰めて、別にと呟きながら烏龍茶をズズっと啜った。その顔はいかにも不満ですと言ってるいるようなオーラを漂わせている。

「あんたムカつくわね」
「お前に言われたくねーよ!!」

 そんな二人の喧嘩がまた再開する前に、二人の間に割って入ったのはロザリィと雅美だった。

「ほら、アリア。そんなに怒らないで」
「まぁまぁ、あっ君も落ち着いて落ち着いて」

 二人を宥めるようにそう言う二人の姿は、何となく似ているとミリアは思う。

「私達は生徒会の仕事があるので、この辺で失礼しますわ。それでは、ごきげんよう」

 朱音のことを睨み付けるアリアの横で、優雅に微笑みながらそう言ったロザリィは、踵を返すとしっかりとした足取りで歩いていく。

「ミリアに何かしたら許さないからね」
「何もしねーよ!!」
「ミリア、何かされそうになったら、直に助けに行くからね」 
「お前人の話し聞いてるのかよ!!って、オイ!!」

釘を刺すかのようにそういうアリアの顔を睨みながら、朱音は怒鳴る。そんな朱音の言葉を無視し、ミリアに対して優しくそう言うアリアはとっとと行ってしまう。
 
「くそぉ~、何なんだあの女」

 アリアの後姿が見えなくなるまで、朱音は恨めしそうにその姿を見送っていた。

「あの、すみません……」
 
 そんな、朱音の顔を見ながら、ミリアは申し訳なさそうに肩を窄めながら謝る。

「ミリアちゃんが謝ることないから。あっ君はそんな事で、人を嫌ったりしないし。ね?」

 必死に謝るミリアに助け舟を出す雅美の言葉に対して、「いや、嫌いだ」なんて言えるはずもなく。朱音は、苦笑いを浮かべながら当たり前だと答えた。

それでも、ペコペコと慌ただしく頭を下げ続けるミリアを見ながら、朱音はやはりある事実を受け入れたくない気持ちで一杯になる。
それは……
「いつもはもっと優しい筈なんですけど……。姉さん……」

 今しがたまでここに居て、朱音を罵倒し続けた彼女、アリア=メロフィアーゼがミリアの双子の姉妹という事実から。その事実を突き付けられたとき、朱音の思考回路は停止寸前だったのは言うまでもない。
普通の姉妹でも、完璧に性格が一致何て事はあり得ないけれど、必ず似ているところはある。双子で、ましてや一卵性と言えば殆ど一致していてもおかしくは無いだろう。にも関わらず、彼女とミリアの性格は見て分かる通り正反対。似ているのは顔だけだ。天使のように無垢なのをミリアとすれば、悪魔のように残虐非道なのはアリア。この襲撃的と言うか暴力的な出会いのせいで、朱音が感じるこれからの学園生活への不安はまた一段と重くなったのである。


後編へ

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1986/10/31
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