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「ニゲ、ルナ……!!」

 外野の三人組が揉めている間、トロルと朱音は攻防戦を繰り広げていた。と、言っても、朱音は一度も攻撃を仕掛けず、トロルの攻撃を間一髪のところで避けていた。

(中々、懐に潜りこめない……!!)

「んなもん、当たったら死んじまうだろーがぁ!!」

 どうやらあの棍棒が邪魔で、懐への後一歩が踏み込めないらしい。仮に懐に潜り込んだとしても、一撃で仕留めることが出来なかった場合。零距離での強烈な一撃が待ち構えているだろう。それを喰らえば、今度こそ動けなくなる。とは言っても、このまま逃げ回っていたとしても、徐々に追い詰められて最後には逃げ場を失ってしまう。

(くっ、どうすりゃいいんだよ……)

「タタカ、エ……!!」

 トロルは疲れを知らないのか、棍棒に入る力は増す一方。攻撃のスピードや動きも俊敏になっていく。それに少し怯んでしまったせいか、トロルの棍棒を避けたはいいが、その時保っていたバランスが崩れてしまう。

 その隙を見逃すことなく攻撃を振り下ろすトロル。これを食らったら、流石に普通の人より頑丈な朱音でも潰れてしまう。

「くそっ!!」

 確実に迫る死への危機感が、反射的に身体を動かす。振り下ろされる棍棒へと突き上げるように右手を振りぬく。
 ズッシリとした棍棒の衝撃が腕に伝わった瞬間、溜めていた右手の魔力が衝撃へと変わる。そして、一瞬感じた重みが嘘のように消えると、あれだけ脅威と破壊力を持ち合わせていた棍棒は、まるで棍棒の内側から爆散するように、その場で砕け散った。

 その、砕け散った棍棒を握り締めながら、トロルは半ば呆然とその場に立ち尽くす。まさか、棍棒がものの見事にここまで破壊されるとは思っていなかったのだろう。破壊した本人である朱音も、トロルと同様にその砕けた棍棒を見つめていた。その場に居た生徒も、驚愕の眼差しでそれを見ていた。

 が、朱音は不意に激しい疲労感に襲われ、その場に膝を着く。予想以上の力を出し尽くしてしまった代償が、疲労感となって返ってきたらしい。その場から立ち上がることすら出来ない。

 そんな、膝を着きピクリとも動かない朱音の存在に気付いたトロルは、次第に意識が覚醒していく。

 破壊された棍棒を捨てると、これ以上の好機を逃すわけも無く、トロルは朱音に止めを刺すべく右手を振り上げる。
 朱音は、その危機的状況を他人事のように呆然と見ていた。身体を蝕むように広がる疲労感のせいで、頭がよく働いていないらしい。

 「そこまでぇい!!」

 その時、誰かの声がぼんやりとした朱音の頭の中に響き、自分に向かってくる誰かの気配がした、その人物は朱音のすぐ傍に立ち言葉を続けた。

「何とか無事のようじゃの……」

 朱音に投げかけるようにそう言う声は、年長者らしいというか何と言うか、本当に心配しているのかと思うほどの落ち着きようだ。それに聞き覚えがある。

(どこが無事に見えるんだよ……)

 心の中でそう毒づいてやるが、今は倒れてしまいそうになる身体を必至に保っているせいもあり、上手く言葉が出ない。

「まったく……わしの自慢のトロルに喧嘩を売って、それぐらいで済むなら幸運じゃぞ……」

 あんたのトロルがいきなり殴りかかってきたんだよと、そう憤慨してやろうと思い。重い頭を持ち上げながら、目の前に立つ人物へと顔を上げた。この動作をするだけでも、随分と時間がかかってしまう。
 そこに居たのは、エロジジイ。もといこの学院の創設者であり学院長の宇治源太郎だった。

「あんたが飼い主なら、躾くらいちゃんと、しろ……」

 軽く学院長を睨みつけ、少し深く息を吸い込みそう言ってやる。しかし、自分が思っているよりずっとその声が小さく、弱々しいものだったせいか、相手が聞き取れているか少し不安になる。

「ほほぅ、すまんかったすまんかった。ちゃっかり忘れ取ったわ」

 どうやら、しっかりと伝わったらしい。ちゃっかりと言う言葉がかなり腹ただしいが、今は言い返す気力すらもない。もし、身体が正常に動くなら、すぐさま目の前で愉快そうに笑うこのジジイを殴り飛ばしてやるのに。
 そう思った瞬間、今度は慌しく駆け寄ってくる誰かの足音が聞こえた。

「あっ君!? 大丈夫なの!?」

 雅美は血相を変えて駆け寄りながらそう言うと、朱音の身体を支えるように手を添える。随分と心配をかけてしまったらしい。

「馬鹿ね、もう少し力の加減くらいしなさいよ……」

 いつもよりずっと優しい声色に、少しばかり安堵する。そのせいか、急激に訪れた眠気をすんなり受け入れてしまう。重い瞼が段々と下がっていき、グラリと身体が崩れるものの、雅美がその華奢な手で支えてくれたらしい。フワリと甘い匂いが一瞬漂うと、今まで広がっていた世界が一瞬のうちに暗くなる。雅美が呼ぶ声も段々薄れていき、そのまま深いまどろみへと沈んでいった。

 

 


「うぅ~、だるい~」

 重たい身体を引きずりながら、担任の先生の数歩後ろについて廊下を歩く。寮と同じで洋風なつくりだが、流石に紅い絨毯を敷かれてはいなかった。優雅だが、どことなく質素な雰囲気を醸し出すそんな空間。

「しっかりしなさいよ。だらしないわね」

 朱音の隣を歩く雅美は、ついさっきまでの優しさが欠片ほども感じられない口調でそう言い放つ。

「だから、今日は寮に帰って休みたいって言ったんだよ」
「それくらい我慢しなさいよ。せっかく学院長が、自分の魔力を分け与えてまで、動けるようにしてくれたんじゃない」
「余計なお世話だよ。動けなければ、保健室か寮でずっと寝てられたのに……」

 雅美の話によれば、あの後学院長は、私の使い果たした魔力を補うために、自分の魔力を流し込んでくれたらしく、そのお陰か私は気だるいながらもこうして動けている。
  そして、気を失った私は、補給が済めば、寝る必要は無いと言う学院長の一言で、殆ど休んでもいないのに雅美に叩き起こされ、自分の教室に向かっている。気を失って寝ていた時間は、五分あるか無いかだ。
 トロルとの戦いは、永遠とも錯覚するほどの長い時間だったように思えるが、事実十分程度だったらしい。あの時、学院長が来なければ、私は今頃棺桶に入れられ家に帰る事になっていただろう。
 
 しかし、その学院長のせいで、あのトロルに襲われたというのも事実だ。何でも、私みたいな編入生が来るのを、ちゃっかり伝え忘れていたらしく。こうなってしまったらしい。お互いの誤解が解けた後は、トロルは片言の言語で必至に謝っていた。その顔が戦闘していたときより険しく怖かったのは、伏せておく。

「あ~やっぱり、私にはこんなとこ合わないんだよ」

 今朝の事といい、この学院に来てからろくな目に合っていない。そう思うと、やはり愚痴は自然と零れてしまう。

「もう、今更そんな事言ったってしょうがないじゃない……」
「確かにそうだけどさー……」

 雅美の言葉に賛同するものの、納得は出来ないようだ。朱音は難しい顔をしながら、軽く溜め息をつく。

「ほらほら、そんな暗い顔してないで、もっと楽しいことを考えよ」

 雅美は、明るくそういうが、こんな事があったばかりでは無茶な要求である。そんな朱音の心情が、顔に出たらしく。雅美はそのまま少し考えると、別の話題を振った。

「そう言えば、私たちBクラスよね。学院長も、わざわざ同じクラスにしてくれるなんて、気が利いてると思わない?」
「変なとこだけな」

 確かに、知らない連中ばかりの中では、少々生活しにくいことは確かだ。その点では、素直に感謝してるが、やはり今朝のことを考えると、もう少し別の意味での配慮をしてもらいたいとも思う。

「私と同じクラスで嬉しいでしょ? これからも色々世話をしてあげるから、楽しみにしててね」
「……」

 雅美は、ニッコリと朱音に笑いかけながらそう言う。そんな雅美の顔を見ながら、朱音には不安な気持ちが込み上げる。出来れば極力世話なんかしないで、そっとしていて欲しいというのが本音だ。

 そんな事を朱音と雅美が話しているうちに、二人の前を歩く担任教師であるレイチェルは、ある教室の前で足を止めると、二人に向き直るように踵を返した。そこには、三年B組と書かれたプレートが飾られてる。

「二人とも着いたわよ。ここが貴方達のクラスの高等部三年B組みよ。ちゃんと自己紹介しなきゃダメよ」

 紺色のスーツを身に纏ったレイチェルはそう言って交互に二人を見た。その姿は、先生というより子供を諭す親のように見える。歳はまだ二十代後半をいっているかいないか位なのだが、いろんな意味も含めて大人の雰囲気を醸し出している。

「はーい」
「分かってまーす」

 朱音と雅美が元気よくそう返すと、レイチェルはクスリと笑って、いい返事ですねと言うと、そのまま言葉を続ける。

「他のクラスより個性的な子が多いから、慣れるのに時間がかかるかもしれないけど……根はいい子達ばかりだから、きっと仲良くなれると思うわ。……さ、じゃあ私が先に入るから、貴方たちは私の後にしっかり付いてきてね」

 レイチェルはそう言ってもう一度優しく微笑むと、ドアに手を掛けた。そして、スライド式のドアをゆっくりと開いていく。廊下の外にいたときに聞こえていたざわめきが、レイチェルが現れた事で静まり返ると、いそいそと生徒達が自分の席に帰っていく姿が、ドアとレイチェルの隙間から垣間見えた。

 そんな生徒たちの姿を見ながら、レイチェルは颯爽と教壇まで歩くと、クラス名簿を机の上に置いて、軽く深呼吸する。朱音はと言うと、支持通りレイチェルの後をオズオズとした様子で付いていく。どうやらかなりの緊張しているらしい。そんな朱音とは違い、雅美は普段とあまり変わらない様子だ。余裕の笑みまで零せるほどに。

「はい、おはようございます。……今日は、編入生の紹介をします。今日からこのクラスの仲間になった、鬼宮さんと六道さんよ。みんな、仲良くしてあげてね」

 教壇の前で爽やかにそう挨拶するレイチェルに対して、生徒たちは口々に揃って挨拶する。レイチェルは言葉に少しの間を空けて、早速本題に入った。

 朱音と雅美は教壇の少し横に並び、白と紫色の制服が入り乱れる教室を軽く眺め渡した。とは言っても、余裕のある雅美だけだが。朱音はというと、為す術もなくその場に固まっていた。チリチリと当たる生徒たちの視線が、身体を更に恐縮させてしまっているようだ。

 レイチェルの言葉に対して一拍置くと、雅美は落ち着きある口調で生徒たちに愛想笑いを浮かべながら、自己紹介を始める。

「今日から、このアスガルド女学院に通うことになった、六道雅美です。至らないところも有るとは思いますが、どうぞよろしくお願いします」

 普段からは想像も付かないような乙女ムード満点な態度に、朱音は軽く心の中でたじろいだ。普段自分に激しい暴力行為をしてくる時と今のギャップが、朱音に相当な不快感を感じさせるらしい。

 雅美の自己紹介が済んだ後は、やはりごく自然と周囲の目は雅美から朱音へと移り変わるわけで、その周囲の視線で輪を掛けて朱音の緊張が増したのは言うまでもない。
ジットリと手には湿った汗を掻いていた。

「きっ、……鬼宮朱音です。……どうぞよろしく」

 たった、それだけの言葉を言うのに、朱音は口が上手く回らない。挙句カミカミで、かなり最悪な挨拶。穴があったら入りたいとは、こういう状況にはピッタリの言葉だ。

(しっ、視線が痛い……)

 興味深げに、朱音のことを見る生徒たちの視線。一分一秒でも早くこの場から消えうせたい気持ちで一杯だった朱音の心情を察してか、レイチェルは高々と教壇から言葉を発した。

「はーい。自己紹介も済んだことだし、サクサクHRを始めちゃいましょうか。……えっと、鬼宮さんと六道さんの席は、一番後ろに空いてる席があるから、そこに座ってね」

 流石に若いと言っても、教師をしているだけはある。朱音はレイチェルの助けに感謝しつつ、空いている席まで足早に移動する。教室内の視線はまだ感じるものの、先程よりは何倍もましな状況だ。

 レイチェルの指示通り、朱音は大体クラスのほぼ中列から若干廊下よりの席に座る。そんな、朱音の右隣の空いている席には雅美が優雅に腰掛けた。

 先程の緊張が解けたのか、朱音は机に突っ伏しながら軽い溜息をつく。ダランとだらしなく机に頭を付けている姿は、さぞこの学院の生徒たちには見られない姿だろう。レイチェルが、学院の伝達事項や何やらを話しているが、生憎今は耳を傾ける気にはなれない。
 そんな朱音の姿を見ていた雅美は、クスリと笑うと、朱音に小声で話しかける。

「コラ、だらしないぞ」

 雅美の呼びかけに対して、朱音は重たい頭を上げながら力なく答える。

「疲れた……」
「疲れたのは分かるけど、もう少しまともに挨拶できないの?」
「しょうがないだろ。苦手なんだもん」

 雅美の苦笑する顔を横目で睨み、朱音は口を尖らせながらそう言うと、また机に向かって頭を付ける。そしてそのまま目を閉じると、周りの音が徐々に遠退いて行くのを感じた。それから、そう時間が経たないうちに、プッツリとアカネの意識が途切れたのは言うまでもない。


第四章 《生徒会》へ

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プロフィール
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男性
誕生日:
1986/10/31
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フリーター
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